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カーディガンズ
「スーパー・エキストラ・グラヴィティ」
全世界のMTVで放送されるミュージック・クリップのうち、実に5分の1がスウェーディッシュ・ポップであるそうだ。そんな音楽大国で、誰もが認める程のビッグ・バンドに成長したカーディガンズ。彼らの6枚目のアルバムとなる本作「スーパー・エキストラ・グラヴィティ」はロック好きのおやじも唸らせるギターサウンドが魅力な1枚に仕上がっている。冒頭からヴィブラートのかかった、どこか懐かしいドライブギターをバックにした濃厚なバラード!アルバムの中軸が“ロック”であることを伝えるプロローグのようだ。紅一点、ニーナの歌声には「カーニヴァル」や「ラヴフール」の頃のようなあどけなさは影を潜め、むしろ卓越したヴォーカリストとしてバンドを牽引しているような存在感を感じる。4thアルバム「グランツーリスモ」のニューウェーブ的なアプローチや5th「ロング・ゴーン・ビフォー・デイライト」でのロック回帰など、試行錯誤を繰り返し、辿り着いた先は自らが最も得意とするメロディーメイキングとギターサウンドの融和であった。恩師トーレ・ヨハンソンを再びプロデューサーに指名し、カーディガンズというオリジナルのバンド・サウンドを追及した一枚。(2005 12月Keyboard Magazine) 
シガー・ロス
Takk....
シガー・ロスの音楽について訊かれたなら誰もが言葉につまってしまうだろう。その魅力にとりつれた人なら、きっと思うように答えられないはずだ。僕等はその圧倒的な音世界を前に立ち尽くし、渦中へ身を委ねるしかない。そこではロックがどうとかという余分な講釈はいらず、音楽とは”感じる”ものであることを改めて知ることとなる。そして4枚目となるアルバム「Takk...」に出会ったとき、またしても言葉を失くしてしまう。65分11曲というこの作品は、一つの壮大な協奏曲のように思える。ギター、ストリングス、ヴィブラフォン、美しいフレーズたちのぶつかり合い。シンプルなコードワーク、ミニマルな連続性の中にはバンドとしての息づかいが伝わってくる。時に激しく時に繊細に、ダイナミックであり、ドラマチックだ。曲中、テンポや拍子が変わるなどドラスティックな起伏がありながらも一曲一曲が大きな終点に向かっているような、そんなストーリー性も感じることができる。そして何よりもヨンシーのファルセット。宇宙の楽器だ。何物にも属さない彼の歌声こそがシガー・ロスというバンドを一つのジャンルにまで押し上げ唯一無二の存在にしているといってよい。(2005 10月号 Keyboard Magazine)
ロイク・ソップ
「ジ・アンダースタンディング」
ノルウェーのエレクトロ・デュオ、ロイクソップのセカンド・アルバム。前作のデビューアルバム「メロディーA.M.」はハウスやエレクロニカ、またフュージョン的なアプローチを盛り込んだラウンジ感溢れる秀作だった。中でもヴォーカル曲などで時折顔を見せる80年代的エレポップな手法は異彩を放ち、彼らの引き出しの多さを感じさせた。今アルバム「ジ・アンダースタンディング」はその歌モノが中心に据えられており、前回垣間見たセンスが突出する形となっている。特筆すべきは収録曲のほとんどを彼らが歌いこなしていること。これはただいたずらに試みているといった類のものではなく、浮遊感のあるヴォーカルスタイルは全く違和感なくトラックに溶け込み、哀愁漂うメロディーが強調される成功例となった。「自分たちがもっと前向きになってつくったもの」と自身たちもコメントしており、新たなステップへ挑戦する姿勢を匂わせた。トラックに関してもバンド・サウンド的な、より主旋律を盛り上げる構成が目立ち、この辺のUK的ポップ・センスも幅広いリスナーに受け入れられそうだ。(2005 8月号Keyboard Magazine)
ニュー・バッファロー
「ラスト・ビューティフル・デイ」
ラウンジなバックトラックに耳を奪われたと思いきや、女性ヴォーカルの感情豊かな歌声に心引き込まれる。オーストラリア発、ニューバッファローのデビュー・アルバムは冒頭からラストまで一曲も僕を裏切らなかった。アーティスト写真を見ると、そこにはカシオトーンを持った女性が一人。この心地よい音楽は彼女サリー・セルトマンのソロユニットによるものらしい。エイプリル・マーチやアドベンチャー・イン・ステレオを彷彿とさせるオーケストレイションは、ちょっと歪んだギターやピアノにリバースや生音のサンプルがシンプルに配色されている。その独特のローファイ空間は聴くものからそっと時間を隠して、そして佇ませる。どこかがノスタルジックなのだ。この巧みな演出。トラック制作から歌いれにいたるまで彼女自身がプライベートスタジオで行ったというのも驚きの一つだ。8ヶ月もの間こもり、作曲にアレンジ、プログラミングまでこなしたという。しかしその仕上がりには宅録のネガティブな側面はなく、むしろ彼女のパーソナルな音表現がより一層デフォルメされ結晶となった。それは顕著に歌に現れ、時に伸びやかに時にたゆたうような豊かな表情をみせる。そして涙を誘うのだ。今後話題になることは必至だろう。が、地元メルボルンでのんびりとマイペースに。そんな我儘なエールを贈りたい。(2005 7月号 Sound&Recording)
ダフト・パンク
HUMAN AFTER ALL~原点回帰」

シラク大統領のオファーも撥ね付けるフレンチ・エレクトロのカリスマ、ダフトパンクの新譜。前作「Discovery」の大ヒットから4年、待ちわびたファンも多いことだろう。今作「HUMAN AFTER ALL」邦題が「原点回帰」と随分意味深なタイトルだが、内容はハッキリ言ってロック!そう、ロックと言って間違いない。これまでのアルバム「Home Work」や「Discovery」ではハウスという枠で語られるも、多様なアプローチをみせるスタイルはごった煮的なテクノ、という印象が強かった。だが今回は全編通してロックだ。リード・シングル「Robot Rock」は正にトラック、タイトル共にアルバムの象徴といえる。タイトなリズムや相変わらずセンスのいいヴォコーダー・ワーク、程好くドライブしたギターサンプルと、どこか80年代ニューウェーヴを彷彿とさせるサウンドは、懐かしく且つ斬新に聴こえるから不思議だ。制作期間をたったの8週間で終えたというだけあって、その音にはライヴ音源のような勢いすら感じられ、残響も控えめ。またもやフロア・シーンを席捲することだろう。またこれまでのPVでは、スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリー、そして松本零士らとコラボレートしており、ビジュアルにも余念がない。今回は本人達自ら監督するという話もあり、そちらも期待が高まる。(2005 5月号 Keyboard Magazine)
サム・プレコップ
「フーズ・ユア・ニュープロフェッサー」
アーチャー・プレウィットの新譜やカクテルズ再結成など活気付いているシカゴ・ポストロックからまた、嬉しい贈り物が届いた。サム・プレコップの新作「フーズ・ユア・ニュー・プロフェッサー」が今僕の手元にある。ザ・シー・アンド・ケイクのメンバーとしても知られる彼だが、ソロとしては1st「サム・プレコップ」から6年振りとのことだ。しかし言う程インターバルを感じない理由は、前作を常に愛聴しているせいだろう。つまり僕は“大”がつく位のファンなのだ。ドキドキしながらCDをトレイにのせると、相変わらずの優しい音風景に思わず涙。牧歌的なギターのアルペジオや肌触りのいいドラミングに彼のソフトな歌声が響く。子守唄のようなどこか切ないメロディとベン・ワットの「ノース・マリン・ドライブ」にも似たボサ・ノヴァ的な空間。時折顔を見せるフォーン・アンサンブルはカスケード・ストリングスのようなエコー感となり、静かに浮遊するシンセのループは、生音をより一層心地よく演出する。朋友ジョン・マッケンタイアのミックスも益々冴え渡り、この音楽への理解と強い意志が感じられた。
彼の美しい楽曲は全ての風景をポジティヴに映し出す映像作品の如く思える。日毎目にする陰惨なニュースに未来を悲観する他ないが、そんな近視眼的な世界の中で、我々にはきっとこんな素敵なサウンドが必要なのだろう。(2005 3月号 Sound&Recording)
ケミカル・ブラザーズ
「プッシュ・ザ・ボタン」
シングルコレクション後、解散説も囁かれたケミカル・ブラザーズ。ニューアルバム「PUSH THE BUTTON」はそんな噂を一蹴する傑作だ。
冒頭から中東フレーバー溢れるストリングスの「GALVANIZE」がキャッチー!Q-TIP(ア トライブ コールド クエスト)のラップをフィーチャーしてケミカル流ヒップホップを演出してくれている。同じヒップホップシーンからはモス・デフの兄弟アンウォー・スーパースターが参加。またシャーラタンズのティム・バージェスやブロック・パーティーのフロントマン、ケリー・オケレケによる呪文のようなヴォイスアクトなどヴォーカル曲がアルバムの中核を担っている。これまでにもオアシスやプライマル、フレーミングリップスなど、美味しいドコロとセッションしてきた彼らだが、今回のコラボレーションも結果的に自分達の新しいサウンドに仕上げている辺りは流石の一言に尽きる。相変わらず方法論としてはテクノでも、メロディーを引き立たせるサンプル使いには脱帽するしかない。
世界中のビッグ・フェスで引く手あまたの二人は、週末はライヴ、平日はスタジオというハードワークをこなしてきたらしい。その相互作用がフロアで、またリスニングでリスナーを魅了できるキモとなっているのだろう。(2005 3月号 Keyboard Magazine)
マウス・オン・マーズ
「ラディカル・コネクター」

3年ぶりとなる新作はアルバム全編にボーカルがフィーチャーされて、よりポップな感触に仕上がった傑作だ。以前から黒人ドラマー、ドドが歌ったり、ボイス・サンプルをループさせたりはしていたが、今回はそれに加えて、女性ボーカルをメインにした歌モノの楽曲をラインナップ。甘美なメロディと相変わらずのボコーダー処理で浮遊感たっぷりに聴かせてくれている。トラックは前作「イデオロギー」でのハードなアレンジはが影を潜めて,BPMはやや抑えめといった感じ。これまでの数々のビッグ・フェスに出演してきた影響なのだろうか、あえて複雑なビートを避けて、より分かりやすいリズムで組み立てられている。CDの先にいるフロアのオーディエンスを意識したような、そんなグルーブを感じさせる。また歌やボイスを中心に据えたため、小難しげな音響的アレンジも控えられ、全体を通してポップな方向性を貫いている。このあたりは出世作「アウトディタッカー」のシンプルでメロディアスな音作りに共通するところが多い。しかし彼らの立体音響は当時と比較にならないほど進化していることも事実。恐るべし、ヤン・ヴェルナー、アンディー・トマ。ケルン発の新しいクラウト・ロック!世界のエレクトロ・ファン必聴です。(2004 9月号 KeyboardMagazine)
トータス
「イッツ・オール・アラウンド・ユー」

シカゴ・ポスト・ロックを世に広めた「TNT」からロックへの原点回帰とも言える「スタンダーズ」と進化し続けるトータス。新譜も斬新なアイディアに満ち、かつ例外なく何物にも形容しがたいアルバムだ。 初期ECM作品やジョー・ザビヌルを経過した田園調ロックとでも言うべきか、当時の前衛的ジャズに見られたような牧歌的フレーズが印象深い。ゲイリー・バートンにも通じる甘美なメロディを醸し出すビブラフォン、ドライブがかったギター、ダブ処理されたリフレインはときに壮大な残響のオーケストレーションを構築する。ざっくりと分かれた定位は左右の脳を刺激し、ふくよかなテープ・コンプレッションは優しくも大きな圧力となって体に響きわたる(それなりのオーディオと音量で聴いて欲しい!)。
 多くの音響系アーティストがそうであるように、彼らも演奏、そして音響的アレンジに様々な実験を試みているが、トータスのサウンドにはそのどこにも属さない音像がある。メンバーであり、エンジニアも務めるジョン・マッケンタイア。彼の所有するSOMA STUDIOはあたかも1つの楽器と化し、個々のセンスが入り混じったカオスを音の結晶へと導いたようだ。2004 4月号 Keyboard Magazine)

ステレオラブ
「マーガリン・エクリプス」

1997年の名盤「ドッツ・アンド・ループス」以降、ステレオラブは大きく飛躍した。ジョン・マッケンタイア、マウス・オン・マーズ、ジム・オルークといった音響職人たちとのコラボレートによる功績は大きく、ギター・サウンドをベースにエレクトロを消化したそのスタイルは唯一無二のものとなった。そして届けられた新作「マーガリン・エクリプス」も例外なくステレオラブ節が炸裂している。サイケデリックなギターをにモリコーネをほうふつとさせるハープシコード、オルガン、適度にフィルタリングされたシンセ、以前にも増して優しさに満ちたレティシアの歌声がシンプルなコード・ワークの上を漂う。1980年代ニューウェーブ的なメロディやハワイアンもティム・ゲインの類稀なるバランス感覚の元でオリジナルな味を出しているし、初期の彼らを思わせる、どこか荒削りなサウンド・デザインはマニアなファンにとっては、むしろ聴きどころの1つと言えるだろう。
ライブ・アクトに関しては、決してショーマンシップ溢れるバンドとは言えないその中で、独特の存在感を放っていたメアリー・ハンセン。彼女の他界後、残されたメンバーの胸中は計り知れない。しかし悲運を乗り越え、常に進化形であり続ける.ステレオラブ、その音楽の厚みに耳を傾けたい。(2004 March Keyboard Magazine)
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